第3回 医療介護をささえる人たち

第3回 医療介護をささえる人たち

介護・医療分野でいきいきと働く人をご紹介します。

被災地支援で出会った介護に疲弊した女性の姿

心身に不調のある家族の介護や援助などを無償で行う「ケアラー」。彼らが抱える課題に20年以上も前から着目し、支援に取り組んできたのがNPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンの理事長を務める牧野史子さんです。
現在の活動の基盤となったのは、1995年に起こった阪神・淡路大震災後の西宮市での被災者支援でした。「もともと教師をしていたのですが、大学時代に夢中になっていた地域活動への情熱を思い起こし、震災の半年後に支援組織を立ち上げました。緊急通報システムの整備やオープンカフェを開催するなどコミュニティーづくりに明け暮れました」と当時を振り返ります。
支援を行うなかで最も衝撃を受けたのが、移動サービスの依頼者宅を訪問した際に出会った70歳代の女性。長年の夫の介護によって心身が疲弊し、室内を這って移動するその姿に、ケアラー支援の必要性を痛感したと言います。
「手始めに開催した介護者のリフレッシュ講座で、『私の人生を取り戻したい』と悲痛の声を上げたケアラーの女性がいました。専門職でも行政でもない、適度な距離感を保って味方になれる私たちだからこそできることがあると確信を得ました」と牧野さん。それがケアラー支援に本格的に取り組むこととなった原点です。

20~40代の介護者に焦点悩みを話せるサロンを開催

活動の場を東京に移し、2001年に発足したのがケアラー支援を専門とするアラジンです。西宮時代にはやりきれなかった地域に出向くアウトリーチ活動に重きを置き、訪問相談「ケアフレンド」をスタート。あわせて支援者の育成や自治体におけるケアラー支援ネットワークの立ち上げ支援などにも力を入れるなか、新たに見えてきた課題が20代から40代の男女の独身者が親の介護に追われる実態でした。
「彼らは支援の対象から見過ごされがちな世代。会社にはもちろん、親戚や友達にすら悩みを打ち明けられず、関係を自ら切ってしまい、どんどん社会から孤立していくケースが多く見受けられました」と牧野さんは説明します。アラジンでは、そんなケアラーのために介護の悩みや他愛のないおしゃべりができる場として「娘サロン」「息子サロン」を開催。昨今はオンラインも活用し、全国から参加者が集うなど、10年を過ぎた今もなお継続しています。

すべてを失って孤立するポストケアラーの問題

現在、牧野さんが最も注視しているのは、介護を終えた〝ポストケアラー〟の存在です。「親の介護が終わると、それまで関わっていた福祉職をはじめとする人たちとの付き合いがなくなってしまうため、ケアラーはますます孤立します。深い悲嘆に暮れて社会復帰ができないケアラーがたくさんいます」と指摘します。そのため、ポストケアラーの集いの場づくりや就労支援など、アラジンでは多面的な支援に取り組んでいます。
課題は山積みながら、独自に条例を定める自治体が増えつつあることや、ヤングケアラーの問題が注目されるなど、多世代のケアラー支援の必要性が叫ばれるようになった今を「大改革の時代。まさに扉が開いたよう」と喜ぶ牧野さん。
その原動力は、仲間を得たケアラーの明るい表情だとか。
「誰かと思いを共有することで人って変われるんです。この喜びがある限り、支援はやめられないですね」

牧野さんに聞きたい!

Q ケアラー支援で大切なことは何ですか?

A 長い目で、ケアラー自身が変わっていくことを応援することです。

大事なのは寄り添って思いを聞いたり、仲間がいる場所に参加できるようそっとアシストすること。課題解決だけが支援ではありません。全国でそうした支援の輪が広がってほしいと願っています。
福祉専門職の方々には、ぜひケアを担うご家族の背景にも目を向けてほしいですね。そして、専門職ご自身がケアラー当事者になった場合は、プロとしてではなく個人として向き合い、気持ちを吐き出せる場所に身を置くことをおすすめします。

牧野 史子さん

今回お話を聞いた方

牧野 史子さん

NPO法人介護者 サポートネットワークセンター・アラジン 理事長

ケアラー支援が必要な方はお気軽にご連絡ください!

東京都新宿区新宿1丁目24-7 ルネ御苑プラザ5階 513号室

03-5368-1955

https://arajin-care.net/

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