介護ライター田口は見た!介護現場のひそひそ話

田口は見た

第八話 発達障害者の就労なぜ社会に出ると適応できなくなるのか

4月になると今まで学校に通っていた学生も一斉に就職の時期を迎える。今回は、マイノリティ向けウェブサイトの編集長をしている筆者の体験談を交えてご紹介したい。
発達障害の診断がつくのは、圧倒的に、大学入学・社会人になりたてのタイミングが多い。大学入学のタイミングでは何が起きるだろうか。
中学・高校までは、決められたカリキュラムをこなし、テストで点数を取れれば卒業できる。皆さんも思い出せば想像しやすいと思うが、中学・高校までって、先生がおせっかいなほど「単位を落とすよ」「補講するよ」など言ってくれたと思う。なので、ほとんどの人は留年など経験しなかっただろう。
しかし、いざ大学に入学すると、私の母校の場合、必修科目以外の科目の履修は、シラバス(授業の目的、到達目標、授業内容・方法、1年間の授業計画、成績評価方法・基準等を明らかにしたもの)を読んで自分で決める。私は同じ学部の先輩に、出席していなくても単位が取れる・テストが簡単な教授の授業をおススメしてもらって、1年目の履修科目を決めた。
そして、大学の事務局は中・高校の時のように親切ではない。聞きに行けば教えてくれるが、基本的には「この科目は何回、欠席したら単位をもらえないから出なさい」「前期で5回遅刻すると単位をもらえない」なんて情報は、履修科目の先生の話を聞くか、授業に出席した友だちに聞くしかない。
そこで発達障害者(ASDの傾向が優位)の人は、先輩や同級生とのコミュニケーションでつまずき、情報を得られないことがある。また、発達障害者(ADHDの傾向が優位)の人は、授業に遅刻する・課題の期日を忘れるなどで、単位を取れないことが多い。そこで「周りの学生は楽々、単位が取れているのに、なぜ自分だけできないのか」となり、精神科や発達障害外来を受診し発覚するパターンが多い。私の周りの発達障害者で、特にADHDの傾向が強い人は、優秀なのに、大学を中退しているケースが多々ある。
大学は卒業して就職すると、発達障害者(ASDの傾向が優位)の人は、空気を読む・暗黙の了解が分からないなどの理由で、会社で浮いた存在になる。発達障害者(ADHDの傾向が優位)の人は、納期を守れない・遅刻する・うっかりミスの多さなどで、叱られてばかりとなり、心配した上司や同僚にともなわれて精神科や発達障害外来を受診するケースが多い。そして、両者ともに不適応をおこし、うつ・不安障害などを発症し、短期で離職してしまう。
私は何人か発達障害の人を業務委託なり、自分の会社で採用するなりしている。共通しているのは、どこの会社でも、短期で離職しているので、年齢相応の常識がない。そして、「あいまいな指示」が分からないので「では、その企画は、メールにまとめて送ってください」などと言うと、論文のような長文メールが送られてきたりする。私は40代の女性になぜ長文になるのか、聞いてみたことがある。論文みたいな長文メールだと、他の仕事と同時並行をしている場合、メールを読むだけで日が暮れてしまうからだ。答えは「分からない単語や用語があった場合に、困るだろうから、全てに辞書の定義を添えるから」「文字数の指定がなかった」だったのだ。
一般的に、メールの中で分からない単語・用語が出てきたら、自分で調べるか、返信メールで「ここをもう少し具体的に書いてもらえないか」など返信することが多いのではないか。
そして、字数も「〇文字で書いてください」とも指定しないだろう。
なので、私は彼女に「分からないところは自分で調べるか、返信で聞くから定義を添えなくてもいいこと」「まずは文頭に要件を書いて、説明はそのあとに書くこと」「メールの字数は600文字までにすること」を提案した。ここまでするのは、嫌味なのかと思いつつ指摘すると、彼女は泣きだした。「今までは変な人って目で見られて、連絡がこなくなったり、契約を更新されなかったりした。だけど、初めて、こんなことを指摘してもらえた」と。
皆さんもそうではないか。例えば、異常な長文を送ってきた相手に対して、社内の人間でもなければ指摘せずに「ビジネスマナーがない」「非常識」と烙印を下し、波風を立てないのではないか。社内の人であっても、違う部署の人ならば上司に指摘し、本人に直接言わないのではないか。取引先ならまだしも、1外注候補だったりしたら、その業者は使わないで終わりではないか。
発達障害の人の一般就労の場合、ネックになるのはそこだ。特に中途採用者だった場合「そんなことは身に着けていて当然」「新卒じゃないんだし、そこまで懇切丁寧に教えられない」「大きな会社ではないし対応できる時間がない」などの理由から、契約を打ち切るのではないか。
そして、発達障害の人は「障害特性から短期離職しやすい」→「短期で離職するので、同年代の人が持っている社会常識が身につかない」→「再就職するけど、やはり短期で離職する」→「転職の回数が多いので採用すらされなくなる」という負のループにはまってしまう。
就労移行支援事業所を運営している方には、その業務のハウツーよりも、もっと大切な「社会常識」や「最低限のビジネスマナー」などを教えてもらいたいといつも感じる。その業務のスキルよりも前に、その2点がないと、雇う側も雇われる側も残念な結果に終わりがちだ。そして、採用した人がそんな人だった法人の方にお願いしたい。どうか「常識のない奴」「何でこんなことを自分が教えるんだ」と思わずに、本人に「こうしたほうがいいと思う」と直接、指摘してあげてみて欲しい。
田口ゆう

第九話 福祉工房にはなぜ「パン屋」が多いのかお役所で見かける「あの」パンの謎

皆さんも市区町村の役所・役場で「安くて」「おいしい」のだけど、「後ろに障害者の人が立っているパンの販売をしている団体」を見かけたことがあるのではないか。あの団体の正体はいったい何?
今回は、取材した内容とともに、その謎に迫りたい。
まず、障害者総合支援法に基づいた障害福祉サービスには図1の種類がある。
障害者の就労にまつわる福祉サービスは4つある。
就労移行支援・就労継続支援(A型)・就労継続支援(B型)・就労定着支援だ。福祉事業を経営する方の中でも、自分が提供している福祉サービスのことしか知らないという方は、とても多い。
その中でも、「パン販売の団体」は就労継続支援(B型)の事業所のスタッフとその利用者なのだ。就労継続支援(B型)は、「障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難な場合に、„雇用契約を結ばずに〝生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所」だ。
筆者宅の近所にも、おいしくて・安くて・近隣の区からもわざわざ買いにくる人がいる、行列のできるパン工房がある。よく買いに行くのだが、スタッフの方が店番でいない時には、障害当事者の方が出てくることもある。障害者施設なのだろうとは思っていたけど、その正体は筆者も最近まで知らなかった。
そこで、そのパン工房の運営をしている責任者の方に「なぜ、お弁当ではなくパンなのですか?」と伺ってみた。
答えは「お弁当は、品数を入れないと売れないでしょう。人間の手作業が多いんです。だけど、パンは機械がやれる部分が多く、成型などを障害者の方ができるからです」とのことだった。
おいしいパンの作り方を知っていますか?
筆者は自宅でオーブンを使って、パンを焼くことがあるが、材料は小麦粉・砂糖・ドライイースト・塩などで、とても安価に作ることができる。ただ、家庭で作る場合は、時間とスペースに余裕がないと作れない。最近では、そういったパンを家庭で焼く機械も出ているが、炊飯器と比べたらメジャーな存在ではない。
手でつくる場合のふっくら・もちもちのおいしいパンを作る最大のポイントは、生地内にどれくらいグルテンが形成されるかだ。機械の場合は、その作業を自動でしているが、手ごねの場合は人力だ。とにかくパン生地を作業台に叩きつける。おおよそ200回〜300回が目安。
嫌な上司に嫌味を言われた時や、パートナーと喧嘩した翌日などは、とてもおいしいパンができあがる。親の仇のようにたたきつけるので、ストレス発散にもってこい。発散しただけパンはもちもち・ふわふわになるので、思う存分、叩きつけて欲しい。低予算で、ストレス解消になる上に、おいしいパンまで食べられる。筆者はコストパフォーマンス最強の趣味だと思う。
就労継続支援(B型)の賃金はどれくらい?
厚生労働省発表の「令和2年度工賃(賃金)の実績について(図2)」を見ると、何と時給223円と激安だ。
福祉事業も企業努力
筆者が取材をしていくと、企業努力により時給1,500円、1,000円など、5倍以上の時給を利用者に支払えている事業所も存在する。介護・福祉ジャンルは営利を嫌いがちだ。いまだに、非営利法人は利益を出してはいけないと誤解している人も多い。ボランティアこそ尊いと思っている業界関係者も存在する。
しかし、その利益が障害当事者の賃金に反映されるのだから、利益を出しているのはただの企業努力だし、その事業所の責任者の経営手腕によるものだ。
お弁当を提供する事業所の実態と母たちの苦労
同じように福祉工房で弁当を販売している事業所もある。しかし、その実態は母のボランティアが多いという。障害のある我が子の居場所を作るため、母たちがボランティアで支えている事業所も多い。
筆者にも軽度発達障害児の子どもがいるが、ライターという仕事柄、育児との両立ができた。
だけど、出勤が必須の仕事であれば、両立できなかっただろう。それくらい、障害児の母は子に人生を捧げることを求められる。
そんな思いから作られたパンやお弁当。これからもありがたく頂きたい。
田口ゆう

田口 ゆう
「あいである広場(https://ai-deal.jp/)」編集長兼ライター。認知症実話漫画「認知症が見る世界(https://amzn.to/3OR8WrH/)」原作者。マイノリティ向け記事やルポ記事の執筆を中心に活躍。

記事一覧に戻る

記事一覧に戻る