ケアの質を高める!PDCA推進術
独自の認知症ケアのアプローチで利用者に寄り添う視点を育む
科学的介護が推進されるなか、あらためて問われるのがケアの質向上をめざすPDCAサイクルの回し方。今回は認知症ケアについて、「そんぽの家 生田」の事例から、そのあり方を考えます。
BPSDを理解し根拠にもとづく対策を打つ
SOMPOケアでは、認知症ケアとして独自開発した「HECTアプローチ」を活用しています。これは、認知症の行動・心理症状(BPSD)の原因をHealth(健康)、Environment(環境)、Communication(伝達)、Task(作業)の4つの観点から分析し、課題解決を図る考え方。流れとしては、まずBPSDが見られる利用者に対し、症状との関わりが考えられる情報を収集し、行動障害を起こしている引き金を探します。その際、4つのカテゴリ別に設定された6~8項目の要因(図1)から、収集した情報がどこに当てはまるかを検討し、対策を考えるというやり方です。
教育研修部の武久信子さんは「まさにPDCAサイクルにのっとり、根拠を持って認知症ケアに取り組むためのツールです。思い込みや感覚的な対処とならないためにも有効です」と説明します。br>ポイントは、同ツールが利用者視点を大事にしている点。要因は、「環境が利用者にとって暑すぎないか」「作業を複雑に感じていないか」のように、主体となるのはあくまで利用者です。「現場では、職員がケアに困ってBPSDに気付くケースが多いのが現状ですが、それをご利用者様視点に立ち返らせてくれるチェック機能も果たします」と武久さん。
一人ひとりに合わせたコミュニケーションを重視
「そんぽの家 生田」では、積極的にHECTアプローチを活用しています。ホーム長の吉武智恵子さんは、「特に認知症ケアで重視するコミュニケーションにおいて、情報収集や分析の手助けになっています」と話します。
同施設では、アプローチの際に施設内の多職種はもちろん、連携する調剤薬局の薬剤師やマッサージ会社、利用者家族にも協力を得ながら解決の糸口を探っています。そうした地道な積み重ねによって、少しずつアプローチ方法が確立されていったと吉武さんは振り返ります。
とはいえ、マニュアル通りにはいかないのが認知症ケアの難しいところ。常に、一人ひとりの利用者に即したコミュニケーションのもと、適切なケアができているかが問われます。「認知症に関わらず、問題が生じたら必ずご本人の視点で考え直すことが大前提です。思いや感情に寄り添うことを大切に取り組んでいきたいですね」(吉武さん)
今回お話を聞いた方
SOMPOケア
教育研修部武久さん
今回お話を聞いた方
そんぽの家 生田
ホーム長吉武さん
HECTアプローチの主な項目
Health(健康)
・薬の影響と関連していないか
・不自由な視力によって引き起こされている可能性はないか
・痛みや不快感と関連している可能性はないか など
Environment(環境)
・徘徊を予防できる環境にあるか
・居室は十分な明るさがあるか
・室内の造りや装飾、家具などが混乱を引き起こすものになっていないか など
Communication(伝達)
・言葉の裏にある感情を感じ取れているか
・わかりやすい方法でコミュニケーションを図れているか
・本人にとっての現実を受容できているか など
Task(作業)
・利用者が認識できる作業を行っているか
・利用者の不愉快な記憶と関連していない
・複雑な作業をしていないか など
実際にあったエピソードの一例
【対象者】帰宅願望の強いBPSD症状の見られる利用者。
①HECT項目を用いて多職種で分析をスタート。
↓分析
②「健康」カテゴリの「活力があり過ぎること関係している可能性はないか」
「痛みや不快感と関連している可能性はないか」との関連性に着目。
↓対策
③レクリエーション機会を増やし、日中の活動時間を増やした。
鎮痛薬や湿布などを用いて、痛みを適切にコントロールにした。
↓解決
④帰宅願望はなくなり、対策はいずれも有効だった。このまま対策を継続することになった。
今回お話を聞いた方
介護付きホーム SOMPOケア そんぽの家 生田さん
神奈川県川崎市多摩区長沢1丁目5-15
TEL 044-978-0366(代表) FAX 044-978-0367