第1回 医療介護をささえる人たち

第2回 医療介護をささえる人たち

介護・医療分野でいきいきと働く人をご紹介します。

SEとして介護業界へアナログ職場に衝撃

介護・福祉業界におけるICT活用の促進や支援に取り組む株式会社ビーブリッド。事業は大きく二つあり、一つは介護現場で生じるパソコン等の機器のトラブル対応や設定、ネットワーク障害などの解決を図るICT支援サービス「ほむさぽ」です。もう一つは、システム導入のサポートやセキュリティリスク対策などを行うコンサルティングが挙げられます。同社のスタッフは、ケアマネジャーや介護福祉士などの元現場出身者が大半です。「介護の知識や現場の温度感を熟知したエンジニアがいることが当社の強みです」と、代表取締役の竹下康平さんは説明します。
創業は2010年。それまでは、大企業のシステムエンジニアとして寝る暇を惜しんで活躍していた竹下さん。でも常に心のどこかにあったのは「技術が本当に誰かの役に立っているのか」という問い。そこで希望を見出したのが介護業界でした。
「振り返れば『介護』=『人の役に立つ』とは単純な図式ですが、ピンとくるものがありました」
運よく介護事業を展開する上場企業のシステムエンジニアとしての職を得て、目の当たりにしたのは積み上げられた紙書類や人の目や手に頼ったチェック機能……。目を疑うようなアナログ世界にカルチャーショックを受けながらも、ICT化に取り組みました。そんななか、後に創業を決意するきっかけとなった出来事に遭遇します。

職業格差への違和感から創業へ踏み出す

ある日の夜、法人内の有料老人ホームで機器の夜間メンテナンスをしていたところ、目前に現れたのは裸の上半身におむつを付けた認知症の入居者︱。はじめて接する認知症の高齢者に、竹下さんは成す術もなく呆然と立ちつくしてしまいます。すると見回りから帰った介護職員が、やや不穏な入居者に声をかけ、スマートに居室へと誘導していったのです。「介護職ってスゴイ!」と衝撃を受けた竹下さん。しかし後になって、その技術に感動した介護職と自身の職種との給与に大きな差があることを知り、愕然とします。「お年寄りが好きなA君とパソコン好きな自分。単に得意分野が異なるだけで、なぜそんな不平等が生じるのか。ならば介助を2人から1人でできるようにして生産性を上げれば、もっと多くの給与を稼げるのだろうか。何ともいえないモヤモヤを感じました」と振り返ります。違和感を覚える一方で、人の役に立っていると実感できるこの業界の仕事にやりがいを見出していった竹下さん。でもそんな折、思いもよらず事業縮小による退職を余儀なくされることになります。
一時は再び一般企業のシステムエンジニアに戻ったものの、払拭できずにいた職業格差の現実と、複雑で難解ながらやりがいを見出せた介護業界への期待が首をもたげ、起業を決意します。「僕は“逆張り”の性格(笑)。難しいほど面白いし、チャンスもあるかもしれない。業界に一石を投じる覚悟でした」

難しいけれどやりがいがある可能性を追い求めたい

介護の業界に入って15年。ICTと介護事業者間の共通言語がなかった時代から考えれば、多少歩み寄りは進んだものの、いまだにICTは難しく捉えられがちな領域です。竹下さんは、「車がそれ自体の構造を知らなくても運転できるのと同じく、ITも使い方さえ覚えれば良いだけ。難しく考えないほうがいいですよ」とアドバイスする。
しかしながら科学的介護の推進やセキュリティ対策、加速する人材不足のなかで、これ以上の現場負担は何としても避けるべきと警鐘を鳴らします。「確実に現場の悲鳴の大きさが変わってくるでしょう。ITは信頼できる外部の力を頼って現場と切り離すことも一つの手です」
介護リテラシーの向上やSDGsの推進など、他産業から介護業界に期待されていることはたくさんあると考えている竹下さん。「難易度は高いけれどやりがい十分。これからもケアテック企業として挑戦を続けたいですね」

竹下さんに聞きたい!

Q そもそも本当に介護にITは必要でしょうか?

A 現時点で仕事が滞りなくまわっているのであれば、無用です。

でも10年後はどうでしょうか?人口減社会がもたらす影響により、間違いなく、施設であればユニットからスタッフが1人か2人減りますし、ケアマネジャーであれば担当件数は倍増してもおかしくありません。でもおそらく介護報酬単価が大きく増えることは見込めません。介護保険サービスを提供したくともヘルパーが足りなく、今までのような支援が行き渡らなくなる地域も続々出てくるはずです。
10年前がつい最近のことだったように、10年後なんてあっという間です。これらを踏まえ、ICTがあらためて必要かどうか考えてみてはどうでしょうか。

古市 盛久さん

今回お話を聞いた方

竹下 康平さん

株式会社ビーブリッド 代表取締役

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