納棺師×訪問看護師が考えるこれからの「看取り支援」

納棺師×訪問看護師が考えるこれからの「看取り支援」

葬儀会社の納棺師である波多野景士さんと、訪問看護師である亀田谷瑞穂さんが、それぞれの視点から看取り支援のあり方について対談しました。

ご家族の納得感を生む充実のエンゼルケアに注力

――それぞれ自己紹介をお願いします。
亀田谷 急性期病院に勤務していましたが、せっかく元気になって退院したのに再入院となる方が気になり、外来に異動しました。そこで感じたのは『薬がなくなっているはずの患者さんが、来院しないのはどうしてだろう』という疑問。理由を知るために訪問看護の仕事に従事し、はじめて患者さんのご自宅に行ってみて薬や処置を高齢のご本人とご家族が管理する難しさを知るとともに、在宅医療の実態に触れました。医療の提供だけでなく、関係機関との調整や療養に適した自宅環境の整備など、さまざまな工夫が求められる訪問看護の仕事に夢中で取り組み、早二十三年です。現在、私が管理者を務める訪問看護ステーションの地域の利用者さんのほか、クリニック、ヘルパーステーション、リハビリ、ケアマネージャー、デイサービス、定期巡回などの機能が集積する複合施設の利用者さんにも支援を行っています。
波多野 私は、看取り後のエンゼルケアから出棺までトータルでサポートする葬儀会社「おくりびとのお葬式」の北海道サポート事業部として医療・介護法人のサポートを担っています。当社は葬儀会社ながら、納棺師を育成する専門学校を持っており、多くのスタッフがそこの卒業生として死後処置にまつわるエンゼルケアの技術を持っているのが特徴です。私も納棺師として医療機関や介護事業所の皆さんに、こうした活動内容を知ってもらい、円滑な連携を図るためのネットワークづくりに力を入れています。
――本日のテーマである「看取り支援」には、どのように関わっていますか。
亀田谷 併設する住宅型有料老人ホームの施設長を緩和ケア専門医が務めていることもあり、看取り支援には力を入れています。大切にしているのは、ご本人はもとより遺されるご家族が最期の時間を“無理なく精いっぱい、悔いなく”過ごせるよう、そっと支えることです。訪問看護師には、そのためのスキルと多職種との調整力が常に問われます。それでも、臨終の場面に立ち会えず「間に合わなかった」と悔やむご家族さんはいらっしゃいます。「何度も面会に来てケアしたのだから、最期に立ち会うことだけがすべてではないですよ」と伝えつつも、出来る限りご家族が「精一杯手を尽くした」と納得できるよう最善を尽くしたいと考えています。
波多野 私自身、祖母と祖父を自宅で看取った経験があり、亀田谷さんのような訪問看護師さんをはじめ、在宅医療に関わるみなさんの支援にとても助けられたことを思い出しました。
当社は、ご遺族とのコミュニケーションが中心となるので、やはりエンゼルケアで貢献したいと考えています。納棺師の私たちが実際に施すのはもちろんですが、近年力を入れているのは医療・介護従事者の専門職の皆さんに向けたエンゼルケアの知識や技術を広める研修会の開催です。研修は、亡くなった方のお身体の状態の把握や適切な処置などを解説する座学とともに、マネキンを使って実際に肌の保湿や鼻腔・口腔の詰め物などを行う技術を学ぶ内容で構成しています。ときには、その場で「ご家族にどのような声をかけたらいいのか」といったリクエストに応えることもあります。コロナ禍の今は、オンラインの形式でも行っていますが、多くのニーズに驚いています。
亀田谷 確かに亡くなった後のケアを学ぶ機会はそう多くはありません。知識を持っていても断片的で、体系的な学びや最新の知識は不可欠だと感じていました。私は、北海道訪問看護ステーション連絡協議会の活動も行っており、そこでも適切なエンゼルケアを広く伝えていく必要があると思っています。

故人の物語を知ることがグリーフケアにもつながる

――そもそも医療機関と葬儀会社とは、普段、どのように連携しているのでしょうか。
亀田谷 現状では、亡くなってからはじめて葬儀会社の方と顔を合わせて、バタバタ物事を決めていくのが常なので連携ができている実感はありません。だからこそ、もっと生前から葬儀会社の方と連携して、生前お元気だったときの趣味やエピソード、その方が大切にしていたことを共有することによって、エンゼルケアの質はもちろん看取り支援にも大きな違いが出るのではないでしょうか。
波多野 お互いにとって最も大事なのは、亡くなったご本人とご家族であるという共通点があるなか、亀田谷さんが仰るように生前から葬儀会社も関わることで、より適切なエンゼルケアに活かすことができると思います。当社では、医療従事者と葬儀会社との引継ぎ書となる「連携シート」を活用しています。いわばカルテとなるのですが、どこまでエンゼルケアを行ったか、身体状況で気になる箇所はあるかといったことから、お鬚を剃ったり髪を整えるかといったご家族の意向を記す欄も設けています。
さらに趣味嗜好などのパーソナル情報を記載する箇所があり、通常では棺に入れられないような副葬品を当社で手作りしてお入れする『おくりびとのおくりもの』という取り組みにつなげています。連携シートに加え、ご本人が大事にしていた物語をご家族にヒアリングして作製しています。
亀田谷 それは素敵な取り組みですね。ご本人が好きだったものが形になるのは、ご遺族にとってのグリーフケアにもなりますから。当施設でも、好きだった服を身に付けていただくなど、なるべく思いを形にするようにしています。
また、ご家族と、“話す”という行為が少しでも癒やしになればと、お悔やみ訪問やデスカンファレンスも大切にしています。もちろん私たちにとっても、振り返ることで次のより良い支援に活かすことができるため、ここに波多野さんのような葬儀会社の方も入っていただき、一緒に振り返る機会があればとても有意義だと思いました。
波多野 さまざまな視点が入ることで、もしかしたらこれまでご家族から直接聞くことのなかったようなネガティブな意見も出てくるかもしれません。良いこと悪いことすべてを受け止めて、切磋琢磨していけたらいいですね。
亀田谷 お看取りって最期の一瞬だけではなく生前からの一連の流れのなかで生じることですから、関わる人たちが最期まで情報を共有するのは大事なことだと実感しました。

高齢者住宅でも温かな空間を創出したい

――今後、高齢者住宅での看取りは、ますます増えていくと思われます。
亀田谷 高齢者住宅でのお看取りにおいても、入居者さんも一緒に偲ぶような温かな空間がつくれたらいいなと思っています。まるで高齢者住宅が1つの町内会のように存在し、日常風景のなかで送り出すイメージです。
波多野 そうしたニーズにお応えし、施設葬も積極的にサポートしています。今朝、執り行った施設葬は、身寄りのない入居者の方でしたが、施設側の要望があって実施し、スタッフ全員で涙を流してお見送りしていました。言ってしまえば他人であっても、人と人との関わりで温かな葬儀ができるのだと実感しました。
他方でコロナ禍の影響もあり、自宅葬を行うケースも増えています。故人様とご遺族の思い出が詰まったご自宅での葬儀は自由度も高いですし、ご遺体をむやみに動かすこともなく、とても理にかなった形です。オーダーメイドで高い満足度を提供できる自宅葬は、時代に即した形として積極的にすすめていきたいですね。
――今後の抱負を教えてください。
亀田谷 今回の対談を通じて再認識したのは、ケアに携わる人たち同士がつながることが患者さんにとっての良いケアにつながるということです。これまでなかなか踏み込めなかったお看取りのその先のことも、波多野さんという新たな仲間ができたことで、心強い思いです。
適切な看取り支援に向けた研鑽を深めるとともに、私のように訪問看護が楽しくて仕方がない看護師さんがもっと増えていってほしいと願っています。
波多野 当社は、「より良いお別れでより良い社会を」を社是に掲げています。葬儀は負のものである一方、家族や親戚が集まり、ご先祖様とのつながりを意識する大切な機会でもあります。医療機関や高齢者施設の方々と協力し、社会に貢献していきたいと考えています。

波多野 景士さん

今回お話を聞いた方

波多野 景士さん

ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
北海道サポート事業部

出発点はウエディング業界だったが、本意ではなかった葬祭部門に異動。そこで葬儀の尊さに魅せられ、2013年にディパーチャーズ・ジャパン株式会社おくりびとのお葬式に入社。現在にいたる。厚生労働省認定一級葬祭ディレクター、相続診断士、終活カウンセラー

亀田谷 瑞穂さん

今回お話を聞いた方

亀田谷 瑞穂さん

社会医療法人社団カレスサッポロ
カレス訪問看護ステーション 所長

急性期病院と回復期病院、外来ナースを経て、訪問看護師の道に進む。車の免許は持っておらず自転車を駆使するアクティブ派。看護師、介護支援専門員

記事一覧に戻る