第3回 知っ得福祉

福祉の聞きたいこと、知りたいことがわかる。現場のリアルな声をお届けします。

「ごみ屋敷に住んでいるんだからゴミの声も聞こえるでしょ?」ヘルパーの叫び

筆者の知人Aさんは、バブル期に稼ぎまくっていたライターで、60歳を過ぎてから、発達障害診断を受けた63歳だ。Aさんには二次障害でうつや不安障害があり、現在は、障害年金を受給し、ライターの仕事を細々と続け、質素に暮らしている。

障害受容ができないまま3年が経過

診断が下ったときは障害受容ができず、福祉の支援になかなか繋がらなかった。筆者の紹介で、相談支援事業所とヘルパー事業所が決まり、ヘルパーサービスを利用するようになって1か月経った。だが、ヘルパー事業所の小池さんより「もう利用停止にするかもしれない」「トラブルが尽きない」と相談があった。
Aさんには他に親しい人はおらず、相談に乗ることになった。
Aさんからも同時に「ヘルパーの小池さんが、家事支援の時に、自分が大切にしている金属ラックに無断で本を20冊積み上げて、たゆませた!」という電話があった。

「ラックが悲鳴を上げている!」というクレームメール

双方の話には食い違いがあった。だが、Aさんの話は二転三転していた。小池さんに話を聞くと「田口さんには20冊って言っているんですか?僕はAさんに『ここに置きますよ』と言って、本を3冊積んだだけです!事業所に届いたメールには、10冊と書いてありました。しかも、『僕は物の声が聞こえる体質なんだ。夜中にラックの„助けて!重い!という悲鳴がしたから気づいた!ラックがかわいそうじゃないか!謝罪しろ!』っていう内容だったんです」とのことだった。
さらにAさんは、調理後の生ごみを床にそのまま捨てるという習慣があり、分別にこだわりすぎるあまり、家はごみ屋敷だ。
小池さんの「物の声が聞こえるなら、何でごみの声は聞こえないんですか!床に投げ捨てられた卵の殻も『腐っています!』と叫んでいるし、山積みのごみ袋も『捨ててくれ!』と言っていますよ!」という怒りもよく分かる。筆者も、ごみ屋敷の取材をしたことがあるが、ごみ屋敷にはコバエやゴキブリだけでなく、目に見えないカビ等の有害物質が飛んでいる。筆者は翌日に謎の高熱で寝込んだほどだ。
その中で、家事支援をするだけでも大変なのに、理不尽なクレームにまで対応していたら身が持たない。
止まないクレームについに、相談支援専門員・サービス管理責任者・ヘルパー事業所の代表が最終通告に行くことになった。

発達障害とその二次障害

発達障害は、生まれつきの脳機能の特性によって、コミュニケーションや社会性、学習、注意力などに困難が生じる状態を指す。主なものとして、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などがある。
しかし、発達障害そのものよりも深刻な問題となるのが「二次障害」だ。二次障害とは、発達障害の特性が周囲に理解されず、適切な支援を受けられないまま成長する過程で生じる、心身の不調や行動上の問題を指す。
具体的には、うつ病や不安障害などの精神疾患、対人恐怖や引きこもり、自己肯定感の著しい低下、暴力行為や反社会的行動などが挙げられる。「なぜできないのか」「努力が足りない」といった誤解や叱責を繰り返し受けることで、自己否定感が強まり、精神的に追い詰められていくのだ。
Aさんの場合は、被害妄想が強く、自己正当化のために嘘をつくという二次障害があった。

「僕はただ…和気あいあいと片付けをしたいだけだった」というAさんの孤独

3人の支援者が訪問すると知ったAさんはまた電話をしてきた。「僕はただ…和気あいあいと片付けをしたいだけだった」「ホントは小池さんにもっと話しかけて欲しかっただけなのに」 Aさんは独身で、家族との交流もほとんどない。バブル期には年収600万円を超えることもあったが、今は障害年金と細々としたライター収入で暮らす日々。かつての華やかな時代を知る友人たちとも疎遠になり、週に一度のヘルパー訪問が、唯一の「人と話す時間」だった。
「小池さんにもっと話しかけて欲しかった」という言葉の裏には、理不尽なクレームでしか他者とつながれない、Aさんの深い孤独が透けて見えた。

クレームや暴言から「福祉サービス難民」も出る現状

「現役ライターのAさんは「そもそも福祉サービスは役所がやるべきだと思う!その提言を記事にしたい!」という。Aさんには、障害福祉サービスの知識はないので、考えた末にその結論にたどり着いたことに驚いた。
障害福祉サービスは、2003年(平成15年)4月の支援費制度施行により、障害者福祉サービスが「措置から契約」へ移行になった。それまでは、措置制度であり、役所の職員がヘルパーサービスを担っていた。
Aさんのようないわゆる„困難事例と呼ばれる人にとっては、措置制度はとてもいい制度だったのだ。2020年(令和2年)6月1日に「労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」が改正され、同年4月1日より中小企業でも義務化された。それに伴い、福祉事業所は、暴言や不当な要求をする障害者の利用を解除できるようになった。実数としては把握できないが、どこの事業所からも「出禁」になる「福祉サービス難民」も出ているというのが支援者たちの声だ。
発達障害者はその二次障害から、被害妄想的な考えが固定してしまう人も多い。Aさんはそういうタイプだと事業所も認識していたため、今回はヘルパーを男性から女性に変更するという対応で様子見をすることとなった。

「赤ちゃん扱いされて嬉しいんだ!」

その後、Aさんは女性のヘルパーが入ったことで、すっかりクレームを言わなくなったという。
Aさんから「新しいヘルパーの北村さんは、僕に『大丈夫かな?』『よく眠れたかな?』って赤ちゃん言葉を使うんだよね!むずかゆいんだけど、子どもに戻れたみたいで幸せ」という電話があった。
高齢者施設で「子ども扱いをするな!」と怒る高齢者の話はよく聞くが、逆は珍しい。人により合う支援の形もさまざまだ。
Aさんが求めていたのは、家事自体の支援ではなく「母性的な支援」「人との交流」だったのではないかと、小池さんは暖かくAさんを見守っている。



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