第十回 広がれ!心のバリアフリー

第10回 人生の選択肢

人生の選択肢が増える障害者雇用
障害があっても当たり前に働ける社会

障害を実感する瞬間

障害への理解を広めるために講演会や執筆活動、メディアやSNSによる動画配信を通して、障害理解について伝えています。そういった場面で、「障害があると一番大変なことは何ですか?」とよく質問を受けます。白杖を使いながら外を歩くことや人の顔を見て誰なのかを判別できないこと、小さな文字や地図を読むことなど、生活のあらゆるシーンで感じる不自由さが頭をよぎります。大半のことは補助具を使用したり、周囲の方にサポートをお願いしたりすることで、うまくこの境遇と付き合っています。
しかし、自分の努力や周囲のサポートではどうにもならないことがあります。それは、障害が理由で職業の選択肢が少ないことです。最も自分の障害を実感する瞬間でもあります。
そのことをはじめて実感したのは、小学生のころでした。小さいころは、「警察官になりたい!」とか、「保育士になりたい!」など、迷いなく口にしていました。しかし、視覚に障害があることを理解できるようになる年齢になると、興味がわく職業と出会っても、視力が低いから難しいだろうと思い、自由に夢を描けなくなりました。

人生が豊かになる秘訣

小学生の高学年の時に、視覚に障害があってもできる仕事の中で、最もなりたい職業である学校の教員になることを決めました。自分の手で夢を叶えたいと思っていたので、進学費用を貯めるために高校卒業後に障害者雇用で就職しました。
障害を抱えながら働くことの難しさに直面し、大きな挫折を味わいました。退職後も、就職先を探しました。働く意欲があっても、簡単には働く場所を見つけられない現実を痛感しました。家族が働きに出た誰もいない自宅の中で、布団に潜り込み、不安に押しつぶされそうになったことを今でも思い出します。
障害が理由で退職をしたり、就職先が見つけられなかったりした経験を通して、「働く」という背景には、人生が豊かになる秘訣があることを知りました。お給料をいただくことで衣食住が安定したり、大切な人を支えたり、挑戦したいことの資金にしたり、余暇を充実させたり。働くことで、選択肢が大きく増えます。
働きたくても働けずに悩んでいる障害当事者はたくさんいます。

活動の原動力

就職先がなかなか見つけられなかったり、障害者雇用で挫折を味わったりした経験が、現在の活動の原動力になっています。障害者雇用に取り組む企業や、就労を支援する事業所、就労や継続雇用を目指す当事者をサポートする立場として動いています。障害者の就労の機会を確保し、職業選択肢を増やす機会へと繋がりうる取り組みが「障害者雇用」です。当たり前のように障害があっても働ける社会を目指し、私にできること、私だからできることに力を注いでいます。

社内理解の重要性

障害者雇用の大きな課題の一つが、継続雇用です。私も、継続して働くことができなかったことが何度もあります。当時の私は、障害者雇用について知識がなく、なるべく周囲の人と同じように過ごさなくてはと思っていました。他に働く場所はないから、見えにくくて難しいことや困ったことを伝えることは、限界が来るまで我慢すべきことだと思っていました。いよいよ無理ができなくなり、やっとの思いで勇気を振り絞り相談をしても、視覚障害や障害者雇用について知らない同僚から理解を得るのは簡単ではありませんでした。障害者雇用の専門家になった今では、私が退職した理由が手に取るようにわかります。
担当者だけではなく、企業全体で障害者雇用に取り組む組織づくりや、障害当事者がしっかりと自身の障害を開示してサポートを求められる環境がなくては働き続けることは難しいです。特に、社内で障害への理解を進めることの重要性が、昨今の障害者雇用に関する研究において注目されるようになってきています。私の障害者雇用サポートとしての取り組みも、社内理解に重点を置いて展開しています。

障害者雇用サポーターへの思い

私が実際に経験したからこそ、障害当事者の働く機会や職業の選択肢を充実させたいと強く思っています。障害があっても、または将来的に障害を抱えても「働ける社会」があれば、選択肢が大きく減ることを避けられます。
《障害者雇用に取り組む企業向け》
講演会や課題解決のためのアドバイス、雇用している障害当事者の相談等を承っています。
《障害者の就労を支援している事業所向け》
支援員の専門性の向上に関する研修会や利用者の障害受容を進められるワークショップなどの依頼等を承っています。
《障害当事者向け》
働くことに関わる具体的な解決策等、オンラインで個別相談を承っています。

障がい者雇用サポーターへの思い

動画で配信する目的

誰もが手軽に障害について知ることができるように、動画での配信にも力を入れています。
YouTubeのチャンネル名『梢の心になるほど隊』は、障害について自然と詳しくなれる動画を楽しくポップな内容で投稿しています。障害者雇用に関する動画も配信しています。

TikTok『視覚障害弱視のぴんぼけライフ』
TikTok『視覚障害弱視のぴんぼけライフ』は、主に私の視覚障害あるあるの動画を投稿しています。発達障害や精神障害など、他障害の当事者のあるあるも募集し、生の声を投稿しています。ぜひ、ご視聴ください。TikTokで『こずえ』と入力して検索するとご覧になれます

杉本 梢さん

今回お話を聞いた方

杉本 梢さん

Lululima branch代表

ルールリマブランチは、正しく障がいを知る機会をあらゆるスタイルでご用意しております。HPはこちら:https://lululima-branch.com/

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