第5回 『10人いたら3人しか残れない』 外国人介護士の資格取得に賭ける、むさし介護アカデミーの挑戦

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『10人いたら3人しか残れない』 外国人介護士の資格取得に賭ける、むさし介護アカデミーの挑戦

「むさし介護アカデミー」の教室で、学長の近藤心也さん(46歳)は外国人受講生にはっきりと言い切る。日本で介護の仕事をする外国人が増えている。だが、彼らがずっと日本で働き続けられるかどうかは、また別の話だ。在留資格「特定技能」には5年の期限がある。その間に介護福祉士の国家資格を取らなければ、原則として帰国しなければならない。「優しく言っても落ちるんですよ。だから今年から方針を変えました」
20カ国300人以上の外国人介護士を育ててきた近藤さんに、外国人介護人材の育成と定着について話を聞いた。

介護福祉士を取れば、母国の仕送り額が変わる

なぜ近藤さんはそこまで厳しく言うのか。それは、合格した場合の経済的メリットが大きいからだ。
「介護福祉士を取ると、年収が20万円から50万円ほど上がります。日本人にとっては大きな差に見えないかもしれませんが、この金額は東南アジアの多くの国ではかなりの額です。仕送りに回せる分がその分増える。逆に5年で合格できなければ、帰国して母国の給料水準に戻る。だから、今が頑張りどころなんだよと、数字を見せながら伝えています」

東日本大震災を機に介護業界へ

 近藤さんは、測量士の父と専業主婦の母の下に、埼玉県所沢市で生まれた。県内の高校に進学し、高校時代は野球部に所属した。大学では歴史を学ぶ。卒業後は、求人広告の営業担当を4~5年経験し、介護との接点は、なかったという。 介護とは無縁だった近藤さんが、この業界に入ったのは偶然だった。「営業を通じて、人事担当者や経営者と話す機会が多かったのですが、社長としゃべっていると楽しかった。だから、自分も社長になりたいと思っていました。31歳のときに、独立しちゃえと思い、営業代行やイベント企画を営む会社を立ち上げました」
2010年に独立。翌2011年3月に東日本大震災が起こり、イベント企画の仕事がなくなった。「親族が手がけていた温浴設備の営業で介護関連の展示会に出展したところ、介護甲子園の立ち上げメンバーと繋がり、介護業界に入りました」

英語禁止。テキストは全部日本語

 学校事業を立ち上げるに当たってどんな苦労があったのだろうか。
「生徒さんの集客をしないとなりませんでした。だけど、外国人には、いいサービスは積極的に紹介する文化があります。横の繋がりが強い。それなので、紹介で生徒さんが集まっていきました」
現在も、年間120人~130人の受講生がいるが、紹介やリピーターが多いという。
 「授業では英語では話しません。例外を除いては、日本語しか話しません。テキストも自社のものではないですが、ふりがなが振ってある、日本語のテキストを使います」
 紹介で集まった生徒たちとの関係は、受講中は良好だ。ただし、卒業後の関係維持には課題もある。
 「日本人はLINEが当たり前ですけど、外国人はあまりLINEを使わないんです。LINEグループを作って連絡しても、返事が来ない。彼らは必要なときにしか、連絡してきません。日常的に使うのはFace bookのメッセンジャーなんですね。だから今年からは、彼らが取りやすいコミュニケーションツールに合わせて発信するようにしていこうと思っています」

特養のユニットリーダーになったミャンマー人

 現場で衝突は起きないのか。
「モンゴル、韓国、カンボジア、中国、フィリピン、タイ、ミャンマー、ネパール、インドネシア、ベトナム、インド、バングラデシュ、ウガンダ、ケニアなど様々な国の人が特定技能外国人として日本にきます。多くの人は、日本で生計を立てながら、母国に仕送りまでしています。気概が違います。ですので、勤務先の愚痴もほとんど言わないし、自発的な人が多い。ある特養で、ユニットリーダーをやらないかと声をかけたら、手を挙げたのはミャンマー人のスタッフだけだったそうです。日本人は誰も手を挙げなかった。結果、そのミャンマー人が今、うまく回している。高齢者も彼らに日本語を教えることで、自信を取り戻すこともあり、定着率はとてもいいです。最初は、外国人に対する抵抗があっても、『慣れ』ですよね」
 近藤さんは、外国人と日本人の〝受け止め方〟の違いも指摘する。
「外国人は、仕事で意見が食い違っても、それはその件についての議論であって、人格否定とは捉えません。議論が終われば一緒にご飯を食べられる。でも日本人は、ちょっと意見が違っただけで、全人格を否定されたと感じてしまう人が多い。会議で言い合ったら、もうあいつとは喋れないとなる。外国人にはそれがない。だからこそ、職場で軋轢が生まれにくいのかもしれません」

「人手不足倒産」が急増する日本が外国人に選ばれ続けるには

 外国人技能実習生の失踪者数は2023年に過去最多の9,753名を記録している(出入国在留管理庁)。しかし、介護職種の失踪率はわずか0.1%台と極めて低い。「失踪するのは、工場や農業など、日本人とのコミュニケーションが少ない業種の人たちです。介護の仕事はコミュニケーションが必須。日本語で人間関係ができると、悪さをしようとは思わない。その差が、失踪率の低さに表れているんじゃないでしょうか」
 帝国データバンクによれば、2024年通年の「人手不足倒産」は342件で前年比31.5%増。なかでも介護業界は深刻で、2024年上半期の介護事業者倒産は81件と過去最多を記録し、倒産理由の6割超が「人手不足」だった(東京商工リサーチ)。
今のところ、外国人から選ばれている日本だが、この状況は続くのだろうか。
 「外国人介護士たちの選択肢は、日本だけではありません。今のところ、日本は安全・きれいなどの理由で、選ばれています。だけど、例えば、ドイツに行ってみたら、安全で住みやすいとなれば、彼らはドイツに行きます。給料水準が高くて、住みやすいのであれば、日本にこだわる必要はありません」
 冒頭で述べたように、在留資格「特定技能」には5年の期限がある。その間に介護福祉士の国家資格を取らなければ、原則として帰国しなければならない。他の特定技能分野に切り替える選択肢もあるが、現実的ではないと、近藤さんは指摘する。
「学校では、生徒たちに『特定技能外国人の介護福祉士合格率は33%だから、10人いたら3人しか残れない』と勉強を促すようにしています。また、受講してない間も、彼らと縁が切れないような連絡ツールを作っています。だけど、多くの外国人が20代~30代、特に20代の人が多いです。若いので、やはり地方ではなく、東京で働きたいと言います。法人単位での定着の取り組みには限界がある。自治体が現地に行って一次面接をする、地域として外国人を受け入れる体制を作る—そのくらいやらないと、地方から人がいなくなります」
 近藤さんの言葉は、介護業界だけでなく、日本社会全体への問いかけだ。日本の介護業界の給料水準は低い。人手不足の担い手として、日本を「選び続けてもらう」ための施策は、急務だろう。

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